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「新しい生活様式」における教育現場で「20人学級」は実現へ向かうのか

第30回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■20人学級のメリットと実現の可能性

 そこには、いわゆる「3密(密閉、密集、密接)」を避けるためには少人数学級が必要であり、新型コロナウイルスだけでなく、今後の新たな感染症予防のためにも必要なことだとも記されている。さらに、「少人数学級制導入の必要性」の項には分散登校を実施した学校からの声として次のように述べられている。

「『一人一人に言葉がかけやすく、勉強もじっくり見られる』『生徒の様子がよく見え、生徒も見られているという意識から集中力が高まっている』『20人がスタンダードになれば指導の効率が上がる』など、少人数での学習や指導での教育効果を再認識した形です」

 はたして、全国で20人学級は実現できるようになるのか。現在は40人学級(小学1年生は35人)が主体であるから、1クラスあたりの子どもの数を半分にすることになる。「提言」では、細かな算出方法も述べられているが、ここでは省く。結論だけを言えば「全国の公立小中学校における20人学級の実施には約10万9千人の教員増が必要」としている。
 もちろん無料で働かせるわけにはいかないので給与を支払うための予算措置が必要になる。「提言」は、年間あたりの予算を国負担分が約2,400億円、地方負担分が約6,200億円、合計約8,600億円が必要としている。
 その算出根拠としては国・地方が負担する人件費を792万円としている。

 これだけの人数を急に集めるといっても無理な話である。「提言」は、15年の時間をかけて段階的に学級上限人数を減らしていき、同時に教員養成と教室を確保しながら、計画的に20人学級を実現していくとしている。そしてこうも述べている。

「2016年のOECDの統計によると、我が国の全教育段階(初等から高等教育全体で就学前教育は初等に含む)公財政教育支出の対GDP比は3.1%であり、データの存在するOECD加盟国平均4.4%と比べ1.3%も低く、加盟国最低レベルです」

「2016年度日本のGDPは約535兆円ほどでしたので、その1.3%つまりOECD平気並に上乗せするだけで約7兆円の教育予算が確保できます」

 つまり、公財政教育支出をOECD平均並にすることで、予算的には全国の小中学校で20人学級を実現することは無理な話ではないことがわかる。むしろ、理論上は20人学級を実現しても、予算的には余裕さえあることになる。

 首相をはじめとする政治家は「教育は大事だ」と機会あるごとに口にするし、政党も与野党を問わず、教育を再重点課題と位置づけている。それにも関わらず、教育にカネをかけることには、誰もが消極的だ。むしろ、教育予算の削減に熱心なようにすら見える。

 新型コロナウイルスをきっかけに注目されている20人学級は夢物語などではなく、公財政教育支出をOECD平均並にし、教育にはカネをかけるべきだと意識を変えることで実現できる可能性があるということを、前出の「提言」は教えてくれた。
 教育にはカネがかかる。極端に言えば、カネをかけなければ充実した教育にはならない。そのことに政治家も政党も、そして政府も気づく必要がある。そして誰よりも教育関係者や保護者が気づくべきである。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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